HPV感染に関連する咽頭がん
HPV(ヒトパピローマウイルス)関連で一番有名なのは女性の病気である「子宮頸がん」です。通常は性交渉で感染するため、男性では「陰茎がん」を引き起こします。
また耳鼻科領域では、男女共に「中咽頭がん」のリスクになります。一方でこれらは、ワクチンの予防が可能ながんなのです。
図:咽頭の構造(イメージ図)
当院では男性の方へのHPVワクチンを実施しております
現在HPVワクチンは婦人科を中心に接種されており、ご自身の健康を考えておられる男性の接種希望者も婦人科を受診されている現状があります。男性の婦人科受診は気を遣うとのご意見もあり、当院では男性のHPVワクチン接種を積極的に実施しています。耳鼻科ならば性別関係なく受診していただきやすいと思います。
ワクチン接種のスケジュールは以下のとおりです。
- ☆15歳以上
- 3回接種(1回目2か月後に2回目、1回目から6か月後に3回目)
- ☆15歳未満(15歳のお誕生日前日まで)
- 2回接種(1回目の6か月後に2回目)
それぞれ1回につき¥27,500です
尚、小学校6年生から高校1年生までの女性は自治体の無料接種の対象となっていますので、近隣の婦人科での接種を強くお勧めしています。
HPVワクチンの安全性は?
日本ではHPVワクチンの定期接種を巡って複雑な経過があったので、ワクチンの安全性について不安を持っている人もいるのではないでしょうか。接種部位が腫れたり痛んだりする副反応は他のワクチンと同様、一般的に見られます。またごくまれに重篤な症状が出てしまうこともあります。しかしHPVワクチンの効果と安全性は世界的に確認されています。
名古屋スタディと厚労省の見解
副反応に関しては、大規模な研究が行われました。名古屋市が2015年に実施した「名古屋スタディ」と呼ばれる疫学研究では、HPVワクチンの接種率が高かった 1994~2000 年度生まれの名古屋市在住の女性全員の約7万人を対象として、報道されたような24種類の症状があったかどうかを調査しました。約3万人から回答があり、HPVワクチンの接種者と非接種者で症状発現リスクに有意差がないとの結論が得られました。
また厚労省の検討部会も、報道されたような症状は「機能性身体症状」であるとの見解をまとめました。これは慢性的な痛みなどの身体症状はあるが、検査で症状に見合う異常が見つからない状態を指します。
このような経緯を経て、2021年11月、厚労省は8年ぶりにHPVワクチン接種の「積極的な勧奨」を再開しました。
男性への接種と将来に向けた取り組みの重要性
早期発見が難しいHPV関連中咽頭がんは、ワクチンによる予防が特に重要だといえます。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、関連学会と共にHPVワクチンの男性への定期接種化を国に要望しています。子供の世代、孫の世代になって、日本が世界から取り残され、“いまだにHPV関連がんを撲滅できていない国”にならないようにするには、今からの取り組みが必要なのです。